- FARO Focus
- Galaxy-Eye Modeler
東海旅客鉃道株式会社 様
建設工事部 電気工事課
榊原 章剛 氏
⼯事業務のDXを推進
東海旅客鉄道株式会社は、労働力人口減少に伴う業務のあり方の変革が求められていることなど、会社を取り巻く環境の大きな変化を踏まえ、最新のICT技術を活用して効率的な業務執行体制を構築する「業務改革」により経営体力の再強化に取り組んでいる。
建設工事部電気工事課は、大規模な電気設備工事の設計・施工監理を担当する部門で、2021年度に『FARO Focus』及び『Galaxy-Eye
Modeler』を導入した。これらを利用して「設備管理」、「計画・測量・設計」、「工事発注」、「施工・しゅん功」のサイクルからなる工事業務のDXに取り組んでいる。
導入背景
効率的に安全・⾼品質な設計を実現すべく、点群技術の導⼊へ
従来、設計図の製図にあたり、工事の都度、手作業で現場を測量し、手作業で製図していた。「現場の測量では、何人もの人が直接その場所に行って、メジャーや高さ測定棒で現地の高さや寸法を測っていたので、現地までの移動に時間も人員もかかっていた」と、建設工事部電気工事課 榊原 章剛氏は当時について振り返った。
鉄道電気の現場測量では列車の往来や稼働中設備に対する接近に注意しながら、限られた時間・条件下で作業するため、精度に限界があり、必要により再調査を行うなど手戻りも発生していたという。また、図面に反映できなかった細かい部分が施工段階で支障し、急遽の設計変更が発生することなどにも困っていた。
「1日かけて主要箇所の計測をしても、漏れや測定忘れがある場合があり、また壁についている小物など細部まで全て計測することはできなかった」と榊原氏。続けて、当時の現場測量について次のように語った。「まず工事計画で一度、現場を見てイメージしながら工事の進め方を決めていくための大まかな測量をする。次に計画作成後、工事の設計のため詳細に現場を測量するが、1箇所あたり1~2日間程かかる。測量結果を図面へ反映して設計を進める際も不明点があれば現場に行くので、設計図の完成に至るまでに2、3回は現場に足を運んでいた。このように、設計が完了するまでに5回程度は現場に行っており、工事が始まっても現場で疑義が出ると現場に出向き計測をしていた。
また、「平面図」、「断面図」、「構造図」など、視点・詳細度に応じた複数の図面を作成するため、製図の手間や転記ミスなどが生じていた。 苦労や課題を抱える中で点群技術を知り、効率的に安全・高品質な設計を実現すべく富士テクニカルリサーチに点群取得を委託したという。この際、効率性や精度の高さから自分たちでも技術を習得すべきと考え、『FARO Focus』及び『Galaxy-Eye Modeler』を導入したとのことだ。
選定理由
点群とモデルを組み合わせて⼯事のシミュレーションをできるのが最⼤のポイント
『FARO Focus』の選定理由として、以下のポイントがある。
●屋外測定・屋内測定とも計測精度が⾼いうえ、⻑距離の計測も可能である
●線路などの⻑径間の測定や、⾼所にある細い電線の測定など、鉄道現場で使⽤するのに申し分のない性能を具備している
導⼊前、『FARO Focus』と他社のスキャナとを⽐較したという榊原⽒は「屋内外様々なショットを撮ったところ、とても正確で精度が⾼い上に、遠⽅まで計測できるので測定の間隔を広く取ることができ、鉄道の現場に即しているスキャナであることが分かった」と語った。
さらに榊原⽒によると「変電⼯事で計測場所となる変電所の広い構内は、動く物がないので多少時間をかけて正確な点群を計測するモードで計測できる。⼀⽅で、線路の中のように列⾞が頻繁に来るときには短時間で計測するモードにも対応できる。こちらが求めている多様なフィールドの中で、現場の状況に合わせて正確な点群を取れることが強みだと感じた」とのこと。
『Galaxy-Eye Modeler』の選定理由として、以下のポイントがある。
●以下の機能を利⽤することで、実⼨で3次元的にレイアウト検討できること
①点群をCAD図のように着⾊したり、モジュール化してコピーできる
②CADで製図した3Dモデルをインポートできる
③点群モジュールや3Dモデルを使った⼲渉チェックができる
●特に点群を3Dモデルのように扱える機能は『Galaxy-Eye
Modeler』の強みと考えている
『Galaxy-Eye
Modeler』について榊原⽒は「もともと当社では、2DCAD図⾯や昔から残っている⻘焼きの図⾯を使いながら仕事をしていたので、平⾯図が基本だった。それが、パソコンの中に現場と全く同⼀なものがあり、⼨法も正確に測ることができる。こんなものが世の中にあると知ったときはちょっとした衝撃だった」と振り返った。そして「そこにモデルを組み合わせたり、点群をモジュール化して動かしたりすることができるため、さらにステップアップして、より具体的な検討に活⽤できる。点群とモデルを組み合わせて⼯事のシミュレーションをできるのが『Galaxy-Eye
Modeler』の最⼤のポイントだと思っている」と続けた。
導入後の変化
【FARO Focus】線路外での計測の実現により、リスクを軽減
今まで線路で測量する時は実際に人が線路内に入って、メジャーなどで寸法計測していた。榊原氏によると「日中だけでなく夜も貨物列車などが多く走っていて、列車が来ない時間帯に測定するか、もしくは列車と列車の合間の5~10分の間に計測し、列車が来たら避けて、また入ってというのを繰り返していた。このように、線路では列車の進来を常に把握して作業を行わなければならず、常に高い注意力が必要な現場である。スキャナを設置すれば、線路の中に入らず計測できるようになる。また、1ショット3分くらいで計測できるのでメジャーより速い。広範囲を効率的に計測できるうえ、線路内での作業という負担もかなり軽減された」とのこと。
【Galaxy-Eye Modeler】シミュレーションによるムダの削減
『Galaxy-Eye
Modeler』導⼊後の変化として、以下の点がある。
●施⼯⼿順を関係者に⽰す際、従来は⼯事ステップ毎の図⾯を製図して⽰していたが、
点群と3次元モデルを組み合わせることで簡単に⽰すことができるようになった
●3D空間上で施⼯をシミュレーションすることで施⼯可否の判断や関係者間の打合せに活⽤できた
設備の支障移転に際し、点群をコピーして移転先に支障が無いか検討できた。特に電気設備は加圧部での感電等を防止するために壁や他の設備から一定以上の離隔をとる必要があるが、3次元的に離隔を確認することができ、設計精度の向上に寄与した。
榊原氏は「大型車、クレーンや大きいトレーラーを現地に入れられるかシミュレーションをしたことがある。従来は多くの関係者を呼び、現地を見ながら打ち合せする。通路を通る時、図面上になかった庇(ひさし)や車止めのブロックがあり、運送会社さんには最初、これではトレーラーは通せないと言われた。しかし、点群データと運送会社さんからもらったトレーラーのCAD図をもとにシミュレーションしたら、通れることが分かった」と語った。
機器搬入においてもルート上の支障物や高圧箇所の離隔を確認し、より安全・効率的な搬入ルートを検討できた。また、ルート上の危険箇所を施工会社に示して注意喚起し、安全を先取りすることができた。
また「注意箇所を示す際、今までは現地で撮った写真をPowerPointに貼り付けて色付けしていたが、点群を使うと、現地に行かずに任意の角度でキャプチャできる。そのキャプチャを使って注意箇所を示すことができるようになった」と榊原氏。
関係者が現場に一堂に会して打ち合わせていた設備の位置調整において、支障範囲や設備をモデルで示し、オンラインで打合せすることにより出張回数を削減できた。
平面では見落としがちな庇(ひさし)でも点群では見落とさず、機器搬入のシミュレーションにより干渉有無も確認できた。従来では念のため撤去する場合もあり、撤去・復旧にコストを要したが、干渉の有無がはっきりと分かるため無駄なコストを削減できた。
榊原氏は「設計や保全をしていて困ることが多いのが、この部分に何が付いていたのかというところを後で見返すことができないこと。そうならないように写真を複数撮っていくが、写真を撮る角度によって写り込んでいなかったり、資料作成用にちょうど良い画角で撮った写真がなかったりする場合も多い。そのような点から、写真に頼るのには限界があったので、確認したいことがあった際に『Galaxy-Eye
Modeler』で見ることができるようになったのは大きな変化だった」と語った。
『Galaxy-Eye Modeler』は、最初『FARO Focus』で計測した点群データの合成で使い始めたという。「『FARO Focus』の付属ソフトである『FARO
SCENE』でショットを合成後、合成の精度を上げるために『Galaxy-Eye Modeler』にインポートし、点群のショットを手動や数値入力で微調整できる。これは他社のソフトだとできない、『Galaxy-Eye
Modeler』ならではの強みだと思っている」と榊原氏。
さらに「点群は測るだけのものではないということを私は伝えたい。計測するだけだと効果は限定的になるが、そこから工事を本当に進められるかどうかシミュレーションすることで、自信を持ってこの工事はできますと言い切ることができる。今まで念のために現場計測を繰り返していたところがなくなったおかげで、無駄が一切なくなった」と語った榊原氏。
『Galaxy-Eye
Modeler』の活用法について榊原氏は「富士テクニカルリサーチさんが講習など機会を設けてくださるので、そこで点群とは何かということや、ソフトの基本的な操作を教えていただける。そこから自分が何に困っているのか、どういったことに活用できるのかということを自分の中で解釈し、自身の知識と組み合わせながら、活用方法の良いアイディアを生み出していくことができたと思っている。特に、点群だけではなく、点群と点群モジュール、3Dモデルをミックスした活用を実践できるようになってから、業務におけるDXの歯車が回り出したと感じている」と語った。
今後の展望
スピーディーな設備・サービスの提供により社会の発展へ
今後の展望として、工事に係わる一連の業務サイクルを3Dデータの活用によりDXしたいという。「例えば、モデリング機能やシミュレーション機能をより活用し、3D空間上で工事の着手~しゅん功までをシミュレーションしてから実際の工事に着手することで、現実の工事も手戻りなく完遂することを目指す。ムダを削減して生み出した資本をより有意義な業務に投入することで、関係する全ての人の業務を効率化し、スピーディーな設備・サービスの提供により社会の発展に繋げていきたい」と話を結んだ。